2015年1月27日火曜日

富岡光学 AUTO CHINON 55mm F1.2/F1.4 (M42) 


 後玉の縁が自動絞りピンを避けるように微妙なカーブを描いて削られているのが特徴の富岡光学製【AUTO CHINON TOMIOKA 55mmF1.2 (M42)】です。開放F1.2という大口径を実現するために後玉のサイズをマウント径ギリギリまで大きくする必要があったことからこのような「ピンの箇所だけ後玉を削る」という大胆な発想が生まれたようです。
 富岡製M42マウントの55mmには以前にも紹介した開放F1.4というスペックのレンズもありますので、少し比較しながら見ていこうと思います。


 2本共【AUTO CHINON】ブランドですが、F1.2の方は『TOMIOKA』 銘が入っているタイプとなります。絞りのオート/マニュアル切り替えレバーやピントリングの幅など若干寸法が異なる箇所もありますが、外装の基本的なデザインはほぼ共通です。外観面で一番特徴的と言えるのはピントリングの『貼り革』かと思います。一見するとピント操作時に滑りそうなイメージがありますが、均一で適度なトルク感ですので使い勝手はとても良好なものです。ただこの貼り革は・・・


・・・このように収縮して継ぎ目が開いてしまっている個体も多いようです。


 後玉側から見てみると口径の違いがよく分かります。レンズ径はF1.4の約29mmに対し、F1.2は約35mmほどあって、自動絞りピンの配置を考えるとF1.4の後玉径でギリギリかなという寸法です。F1.2の後玉を入れ込むためにレンズを一部カットせざるを得なかったのが見て取れます。また無限遠側ではマウントネジ端よりも後玉レンズ面が飛び出ていますので、うっかりマウント面を下にして置いてしまわないよう気をつけないといけません。さらにF1.2の方はマウントアダプターを使用する際にも注意が必要で、『ピン押しタイプ』のアダプターだと後玉可動部とピン押し板が干渉してしまいます。無理矢理近接側だけで使用することも出来ますが、うっかりピントリングを無限遠側に回しすぎてぶつけてしまう恐れもありますのでピン押しでないタイプのアダプターを使用する方が賢明かと思います。

 次に気になるのがF1.2の後玉の色です。見る角度によって飴色というか茶褐色とでも言えそうな状態にまでしっかりと色が着いてしまっています。以前にもご紹介した初期型の沈胴ズミクロンスーパータクマーと同じようにアトムレンズ?なのか検索してみたところ、どうやらこの富岡製レンズにもトリウム配合のタイプが存在するようですので、早速簡易型の放射線測定器で線量を計測してみることにしました。まずはF1.4の方から・・・


・・・後玉側、前玉側共に目立った数値は計測されませんでした。ほぼ周辺環境と変わらないというレベルです。一方、変色がかなり進んでいるF1.2の方は・・・


・・・後玉側で非常に高い数値が出ています。初期型の沈胴ズミクロンは2~5μSv/hというレベルでしたが、このF1.2は10μSv/h以上という値が計測されています。後玉部が張り出している構造上、測定器にほぼ密着させられる位置で計測できたのも高い数値が出ている要因の一つかもしれません。いずれにしてもF1.2の方はトリウム配合レンズが使用され、経年による黄変が発生していることが分かりました。
 ではこの黄変が写りにどの程度影響してくるかを白色のペーパーを撮影し見てみることとします。ホワイトバランスは黄変の現れていないF1.4レンズで合わせて5200K固定、ISO400、シャッター速度1/250、絞りF4と各設定値を固定にして撮影し、画像の中央部を切り出してみると・・・


・・・一目瞭然です。F1.2レンズの黄変の影響は顕著で大きくバランスが崩れています。これではカラーフィルム撮影にはちょっと使いづらいですし、デジタル撮影でもホワイトバランスに気を遣う
ことになります。またヒストグラムを見るとカラーバランスだけではなく輝度レベルもかなり落ち込んでおり、同一絞り値でも露出アンダーに振れていることが分かります。となると開放F1.2というスペックですが現状ではもうこの明るさは得られていないということになりそうです。ちょっと残念な気もしますが開放のボケ味は大口径ならではのものが味わえると思いますので、次は絞りによる描写の変化を見てみたいと思います。


 浅い被写界深度ととても柔らかなボケ味、それに周辺部の光量低下が相まって幻想的な雰囲気を味合わせてくれます。


 数段絞るだけでガラッと描写は変化しシャープさが際立ってくるのが、大口径レンズの面白いところかもしれません。ではF1.2レンズとF1.4レンズでは開放の描写にどれ程の差があるのかという点も気になるところです・・・


 F1.2ではハイライト部のエッジに色滲みが見られ、周辺部像流れの形状も異なります。前後ボケの大きさはF1.2の方が大きく柔らかい印象が見て取れます。合焦部は両レンズ共とても薄い範囲なのですが鮮鋭感はF1.2の方がやや上回っているように感じます。以下開放でのサンプルです。




  ハイライト部に若干滲みが出るものの、コントラストの低下がほとんど見られないのが好印象で、周辺減光と大きなボケを生かし大口径レンズらしい画作りを楽しめる1本がAUTO CHINON TOMIOKA 55mmF1.2 (M42)だと思います。

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